研究概要 |
ゲル内結晶成長では特異なモルフォロジーが現われる場合がある。ニクロム酸カリウム(K_2Cr_2O_7)をゼラチンゲル中で三次元的に成長させると塩濃度とゲル濃度が共に高いある限られた領域で,右巻きの巨大らせん結晶(helical crystal)が出現し,これは人工結晶では他に例がない。この右巻きらせん巨視構造がゼラチンを構成するコラーゲン巨大分子の右巻き三重らせん構造に由来するという我々の仮説を実証するため,溶媒の水(H_2O)を重水(D_2O)に変えることによって,コラーゲン巨大分子の配列(4次構造)をアモルファス型に変えたときのらせん成長の変化を観察した。その結果,重水濃度が増加するに従ってらせん結晶の大きさが劇的に変化し,重水濃度が90%以上になると,らせんがほどけた形の特異な結晶が得られた。この実験結果から,コラーゲン巨大分子の4次構造がらせん成長に不可欠であることを実証することができた。また,微分干渉顕微鏡等を用いた「その場観察」によって,らせん成長は,成長先端の鋭い2本の角(horm)が互いに右回りにねじれることによって先端が成長する極めて特異な二重らせん構造であることを初めて確認した。さらに,このらせん成長系にアスパラギン酸(Asp)やグルタミン酸(Glu),ポリアスパラギン酸やポリアクリル酸等を0.1%添加したときに左巻きらせんが約20%の確率で出現することを初めて発見した。K_2Cr_2O_7のらせん結晶に完全な鏡像体が存在することを実証することができた。
|