研究概要 |
パルス誘導光散乱法を用いて、過冷却液体のガラス転移を決定づける密度ゆらぎの時間相関と空間相関を同時に決定することにより、ガラス転移機構に関わる時空間スケーリングの可能性を追求することが本研究の目的である。パルス誘導光散乱は実時間測定法の1種であるから密度ゆらぎの時間相関を直接捉えることができ、しかも散乱ベクトルqを変えることにより(測定する長さの"物差し"をかえることになる)、密度ゆらぎの空間相関をも得ることができるという長所をもつ。 ガラス形成物質であるD-ソルビトール、D-ソルビトールと比べ分子鎖が半分であるグリセロール、そしてこれらの物質と異なり分子間水素結合を作りにくいサロールを用い、パルス誘導光散乱を行った。散乱ベクトルqを変えて密度ゆらぎを測定することに成功し、その結果、密度ゆらぎの緩和時間がそれぞれのガラス転移温度T_gよりもかなり高い温度T_<max>で最長となり、しかもT_<max>がqの減少に伴って低くなる新しい現象を発見した。例えばD-ソルビトールの場合、ガラス転移温度はT_g=266Kであるが、qが1.3×10^4,8.6×10^3,3.7×10^3,8.3×10^2cm^<-1>のとき、T_<max>はそれぞれ309,305,299Kとなる。この現象は、密度ゆらぎの空間相関を特微づける長さのスケールξが存在し、それが温度の低下に伴って長くなるが、T_<max>で波長Λ=2π/qと等しくなることで解釈できる。本研究により見つかったξは、1965年にG.AdamとJ.H.Gibbsによって提唱されたCRR(Cooperatively rearranging region)の大きさのスケール(1〜10nmのオーダー)とは異なる新しい長さのスケールであると考えている。
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