研究概要 |
異なる向きの円偏光に対してラマンスペクトル強度に差が生じる現象を,ラマン光学活性(ROA)という.本研究は生体高分子において,らせん自体の骨格振動が最も直接的な形で現れると予想される,低振動数領域でのROAを測定することを目的とする. 通常のROA測定ではシングルモノクロメータとCCD検出器を用いるが,低振動数ROAでは,1/4波長板を回転させて円偏光の向きを変え,フォトマルを用いた波長スキャンを行う方法を採用した.装置は,CCl_4の218,314cm^<-1>の偏光解消モード,459cm^<-1>の全対称モードが,左右円偏光で同じ強度になっているかで検定した.アミノ酸などの旋光性物質では,サンプル中の実効的な偏光軸が回転するが,1/4波長板の軸を微調整することで対応した.生体物質はレーザー照射で劣化するので,10mW程度の微弱光を用いた長時間測定を余儀なくされた. poly-L-リジン水溶液(αヘリックスおよび3回らせん),αヘリックス含量が高いインシュリン,アポフェリチン水溶液(以上の濃度10%)において差はでなかった。リゾチーム水溶液(40%)では,蛋白質の信号は見えたが,差は認められなかった。リゾチーム結晶(60%以上)では,差の痕跡が現れたが,さらに積算をする必要がある。 結晶では,境界での偏光の乱れや,結晶対称性に由来する旋光性などを考慮しなければならないが,信号強度が充分でない水溶液より,有意な結果を得られる可能性が高いと思われる。試料の均一性という面では液体が有利なので,ニートな液体試料で,ROAが期待できるものを探すことを試みたい。
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