研究概要 |
地殻から上部マントルにかけての深さ100km程度までの領域では,地震波伝播速度や密度の構造がいわゆる成層構造とは異なって強い不均質が存在すると考えられている.本研究では,ランダム不均質性が存在する構造の中を伝わる実体波や表面波のエンベロープを,波動論および輻射伝達理論に基づいて導出する.また,観測される地震波形のエンベロープから不均質構造のスペクトル推定を試みる.平成12-13年度の研究成果を以下に記す. 1.波動場の2次モーメントに対する確率統計的方程式を出発点とするエンベロープ導出法を2次元ランダム媒質に適用し,その解析解を初めて導いた.数値シミュレーション解と比較し,このエンベロープ導出法の妥当性を明らかにした.波動方程式の統計的処理に基づくマルコフ近似法によって,3次元実体波エンベロープの直接的解法を提案すると共に,S波エンベロープの解析から東北地方の不均質構造のスペクトルを推定した. 2.地球を周回する100秒以上の長周期表面波(レイリー波)の長時間にわたるエンベロープ形状を説明するために,輻射伝達理論に基づいて球面上の一次等方散乱モデルを構築した.レイリー波の散乱の強さを示す散乱係数は1-30HzのS波のそれより4桁も小さいことを明らかにした.さらに,輻射伝達理論にもとづき,多重散乱過程を現密に定式化する事に成功した. 3.韓国南東部における地震波の減衰特性を,コーダ規格化法によって測定することに成功した.1998年岩手山の地震の発生前後で地震波速度ならびに散乱特性が広域的に変化していたことを,人工地震記録のコーダ波の相互相関スペクトル解析から発見した.岩石標本中の超音波弾性波の伝播特性を調べ,そのエンベロープの崩れ方が不均質構造のスペクトルに強く依存することを明らかにした. 4.高周波数地震波の散乱とその波形エンベロープ形成に関する総合報告3編の執筆を行った.
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