研究概要 |
原生代の氷河期には低緯度氷床が存在した証拠が発見されており,地球全体がほぼ完全に凍結したのではないかと考えられている.本研究では,このスノーボール・アース現象の物理化学過程に関する理論的検討を行った. まず,地球放射の二酸化炭素分圧依存性を考慮した南北1次元エネルギーバランス気侯モデルと炭素循環モデルを新たに開発した.これらのモデルを用いて,炭素循環システムと気侯システムの挙動を解析した結果,スノーボール・アース現象は大きく4段階に分けて考えることができ,各段階における支配プロセス及び特性時間は大きく異なることを明らかにした.また,スノーボール・アース現象が生じる条件は二酸化炭素濃度がある臨界値にまで低下すること,そこにおいては大気海洋系に対する二酸化炭素の正味供給率がほぼゼロになっていることを明らかにした. 一方,原生代には3度の大氷河時代が知られているが,そのすべてに低緯度氷床が存在した証拠があり,スノーボール・アース現象を引き起こしやすい要因が存在した可能性が高い.そこでまず,異なる太陽放射条件のもとで,原生代における全球凍結条件の達成されやすさについて検討を行った.その結果,原生代の弱い太陽放射の影響は,当時の地表面に陸上高等植物が存在していなかったことによる低い風化強度の影響によって完全にうち消されてしまうことが分かった. 地質学的研究によれば,原生代後期には海水の炭素同位体比が大きく変動していたことが分かっている.そこで次に,炭素循環モデルに炭素同位体比の時系列データを与えて炭素循環システムの変動を調べた.すると,氷河期直前には海洋における生物生産性が非常に高まることが分かった.生物生産性の増加は二酸化炭素の固定率の増加を意味するため,これがスノーボール・アース現象の直接的原因であった可能性が高いといえる.
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