研究概要 |
本研究は,水力学的物理営力の影響下を離れた海底の堆積物が、底生動物の活動によってどのように撹拌されるのか,そのメカニズムの解明と地質時代を通じての変遷過程を把握することに第一の目的があった.そして,生物撹拌現象が底生動物の生活・行動様式の変遷とどのようにリンクしているのかを考察することに最終目的があった.この目的を達成するため.古生代の地層から現生の干潟堆積物までを検討対象とし,そこから産する底生動物活動の化石記録である生痕化石の検討を行ってきた. その結果,底生動物の営巣活動や摂食活動が,堆積物表層部の鉛直撹拌に大きな影響を及ぼしていることが化石でも明確に確認された.生物撹拌現象は,古生代以降普遍的に起きている現象であることは周知のことではあったが,中生代ジュラ紀と白亜紀の境界付近を境として,質ならびに規模に大きな変化があることが判明したことは本研究が初めてであり大きな成果である.その背景には,白亜紀に起きた海洋表層部に由来する植物プランクトン起源の栄養フラックス量の著しい増加と,それに敏感に反応した底生動物の摂食様式の変化現象があるものと考えている.また複雑かつ大規模なネットワーク状の巣穴を油底面下に構築する甲殻類の繁栄,そして短時問に大量の堆積物を撹拌するエイ類に代表される大型魚類の出現は,従来の研究では全く見過ごされていた視点である.本研究において,それらが生物撹拌現象に大きく貢献していることが確認された点は,今後の研究展開の新たな方向付けにもつながる重要な成果と言えよう.
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