研究概要 |
放散虫類(Radiolaria)は,従来,棘針綱(Acantharea),多泡綱(Polycystinea),濃彩綱(Phaeodarea)の3綱に分類されてきた.これらの綱は,形態的特徴に基づいて定義されているが,各綱間の系統関係は,化石による古生物学的な証拠からだけでは,十分に類推することができないのが現状である.近年,多くの生物群で,DNAの塩基配列に基づく系統解析が行われ,形態学的特徴とDNA塩基配列の,双方からのアプローチによる系統関係類推の有効性が示されている.しかし,放散虫類における分子系統の研究はあまり進んでいない.これまで,Zettler et al.(1997)とLopez-Garcia et al.(2002)は,PolycystineaとAcanthareaの2綱の系統関係について論議を行っているが,彼らによって解析されたPolycystineaは,群体性もしくは殻を持たないSpumellatia目の種のみであり,化石においても現生においても多産する珪質の殻を持つ単体性の種は,いまだ解析されていない. 本研究では,有殻単体性のSpumellaria目に属する放散虫の分子系統解析を行うことを目的とし,沖縄県瀬底島沖合にて採集した試料を用い,PCR法およびクローニングを経て,塩基配列解析を試みた.その結果,Spongodiscidae科に属するDictyocoryne profunda Ehrenberg, Dictyocoryne truncatum (Ehrenberg), Spongaster tetras Ehrenbergの18S rDNAの塩基配列を決定することができた.これらの塩基配列と国際塩基配列データベースから得た既知の放散虫の塩基配列に基づき,近隣結合法,最大節約法,および最尤法を用いて系統樹を構築し,その系統学的位置について考察を行った. その結果,これまで一つのグループにまとめられてきたPolycystinea綱は,大きく2つのクレードに分けられることがわかった.これらは側系統の関係になる.また,Polycystinea綱のなかで,本研究対象となった有殻単体性のSpongodiscidae科数種は,これまでに放散虫に属さないとも考えられてきたAcantharea綱と単系統をなすこともわかった.Polycystinea綱は珪酸質の,Acantharea綱は硫酸ストロンチウムの殻と,まったく殻形質が異なっているものどうしが(分子による再検討で)単系統群を形成したことは,現行の放散虫の分類体系を改訂する可能性を示唆するものかもしれない.
|