研究概要 |
日本海側における鮮新統〜下部更新統産腹足類化石のうち、現生種28種中19種が非プランクトン栄養型、絶滅種でも13種中10種が非プランクトン栄養型の幼生生態を示す。すなわち、非プランクトン栄養型の幼生生態を示す種が現生種でも、絶滅種でも卓越し、幼生期の生態は絶滅の内的要因とはならないように思われる。そこで、非プランクトン栄養型の幼生生態を示し、肉食で個体群サイズが小さいため環境変動を受けやすいと思われるエゾバイ科、アクキガイ科の分類を再検討し、その分布様式を詳細に検討した。その結果、Ancistrolepidinae, Neptunea, Buccinumのように下部浅海帯以深に生息する分類群(L群)とNucella, Ceratostoma, Ocinebrellus, Lirabuccinumのように上部浅海帯以浅に生息する分類群(U群)とでは、分布様式が異なることが明らかとなった。L群中には化石が日本海側に限られる絶滅種、絶滅個体群が多く(36種中20種)、化石も現生も日本海に限られる種が2種認められる。一方、U群では現生種が日本海、太平洋両側に生息する種が多く(10種中7種)、化石が日本海側に限られる絶滅種は2種と少ない。 更新世中期〜後期の氷期に海面低下した際、閉鎖的となった日本海の表層が汽水化し、深層部が還元環境下となった。また、中層部にはL群中に日本海固有種が見られることから、純海水が存在したと考えられる。L群の多くの種や個体群はこうした深層部の還元環境、U群の1部の種は表層部の汽水化により絶滅した。さらに、最浅生息深度が上部浅海帯以浅にある種は日本海・太平洋間の移動が容易なため種としては絶滅していない。これらから、幼生生態ではなく、むしろ成貝の生息深度の違いが縁海における腹足類の絶滅に大きな影響を与えていると考えられる。
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