研究概要 |
この研究は,地史的証拠によって得られたイベントについて現在的視点で捉えるための基礎的な研究を行った.とくに近年,全国の沿岸域の環境が人為的に改変され,底生有孔虫群集の組成が急激に変化しつつある現象に注目した.最も典型的な場所が宍道湖と中海にみられる.国家事業である中海・宍道湖淡水化計画によって人為的な改変が進み,群集構造には極めて特異な現象が見られるようになった.干拓のために一部が閉鎖され,水門建設のために海水の流入が制限されたためである.この閉鎖域では有孔虫は消滅し,中海では特定の種の増加が見られる.多数の種類の石灰質有孔虫が,数年の間に消滅していることを認めた.このように現在的な視点とは,地史的なイベントをモダンアナログに求めて,その群集構造の変化過程を検証するための基礎的な情報を得るためのものである.本研究ではこのような観点にたって生物群の絶滅また発展の過程を考察するうえで重要となる多くの資料を得ることができた.以下に,その概要を述べる. 汽水湖中海の環境変化に関する人為的工事の影響では,有孔虫の消滅には次の(1)海水の流入停止、(2)塩分躍層の発達、および(3)下層水の脱塩分化に呼応した群集変化が起こったことが確認された. 汽水湖環境への人為的影響と自然的影響の役割評価では,20世紀を通じた汽水湖の中海を人間活動と自然変化の異なった視点でとらえ変化の要因を議論した.人間活動と自然変動が共に作用した場合にもっとも大きな環境変化を起こすことが認められた.また、平成13年10月25日から12月17日にかけて行われた東太平洋のOcean Drilling Program Leg 199航海に参加し,研究の目的とする新生代のイベントを直接検討することができた.
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