研究概要 |
分子動力学(MD)計算によって,パイロープガーネット(Mg3Al2Si3O12)に輝石成分(Mg4Si4O12)が固溶した際の結晶学的・熱力学的・弾性的性質の変化を予測・予言するとともに,結晶内の原子配置がこれらの諸物性に及ぼす効果を考察した. 2種類の固溶体,すなわち,1.結晶内の8面体席でMgとSiとがオーダリングを起こして分布した正方晶系固溶体 2.結晶内の8面体席でMgとSiとがランダムに分布した立方晶系固溶体 を作成し,格子定数・体積・体積弾性率・モルエンタルピーについて,組成に応じた変化および結晶内の原子配置に応じた変化を調べた.得られた結果のうち,特徴的なことがらは以下の2点である. 1.正方晶系の固溶体では格子定数aとcとの間にa>cの関係がある.結晶中の輝石成分の減少とともにaとcの値が徐々に接近していき,最終的にはパイロープ組成でaとcとの値が一致して立方晶系となる. 2.パイロープに近い組成範囲では,正方晶系固溶体と立方晶系固溶体との間で,体積・体積弾性率・エンタルピーの値にほとんど違いが見られない.結晶中の輝石成分が更に増加すると,立方晶系固溶体の方が正方晶系固溶体に比べて体積は相対的に大きく,体積弾性率は相対的に小さく,またより高エンタルピーとなっていく. 体積弾性率の実測値(高圧X線回折の値)には,結晶中の輝石成分の増加とともに減少していく傾向がみられるが,輝石成分が80%を超えたあたりで急激に増大する.この現象は,輝石成分が80%を越える付近の組成で,8面体席におけるMgとSiとのオーダリングが生じることにより,体積弾性率の増大が生じるためと解釈できる.
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