研究概要 |
シガトキシン類は,珊瑚礁周辺に棲息する魚介類によって引き起こされる食中毒"シガテラ"の原因物質であり,強力な毒性(マウス致死毒性,0.35〜1.3μg/Kg)を有する。神経細胞膜にある電位依存性ナトリウム・チャネル(膜タンパク)に特異的に結合することに起因するが,天然からは極微量しかサンプルが得られないので詳細な研究が滞っている現状にあり,化学合成によるサンプルの供給が切望されている。本研究者は,平成9年度から平成11年度にわたって行なわれた文部科学省科学研究費補助金基盤研究C(2)「抗シガトキシン抗体の調製およびシガトキシンの全合成研究」に引き続き,オレフィンメタセシス反応を鍵反応とした多環状エーテルの短段階収束合成法利用し,分子量千をこえる複雑な巨大ポリエーテル分子であるシガトキシンCTX3Cの世界最初の全合成に成功し,平成12年度から14年度の本研究期間内に目的を達成することができた。この成果は,米国の有名雑誌"サイエンス"(11月30日号)に掲載され,朝日新聞,毎日新聞をはじめ多くの全国紙でも報道された。また,アメリカ化学会の機関紙"Chemical&Engineering News"'にも紹介され,"Chemistry Highlights 2001"で"2001年における有機化学の重大発展(4件)"の一つに選ばれた。本研究の第一の目的である「全合成」が達成されたことにより,これまで未解明であった「毒性発現機構」の解明に向けて大きく前進したことになる。また,全合成に用いた部分フラグメントをハプテンとした抗シガトキシン抗体の調製も共同研究者の努力により非常に進展しており,簡便な毒魚検出キットの開発も進んでいる。
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