研究概要 |
本研究ではベンゼン環の1,2,4,5位をジシラン鎖で架矯したタルト形の大環状シクロファンおよび鎖状ホモログを合成し、その構造、包接化合物の生成、電子状態について調べた。 これらの化合物はパラジウム触媒を用いてペンゾ[1,2:4,5]ビス(1,1,2,2-テトラメチル-1,2-ジシラシクロブタ-3-エン)のメタセシスを行い合成した。現在までに鎖状の二〜五量体と環状の四量体および五量体を単離した。 X線結晶構造解析の結果、環状四量体は菱形のベルト状構造をとっており、分子内に7.3Åの空孔をもっているが、溶媒分子を包接していない。一方、環状五量体および環状四量体八酸化物をベンゼンから再結晶すると、それぞれ約11.9Åおよび10.4Åの空孔にベンゼンが1分子取り込まれた包接化合物が得られた。いずれもベンゼンはシクロファン環の面に平行な配置をとっている。また、環状五量体の空孔はやや大きく、ベンゼンは空気中で容易に脱離するが、環状四量体八酸化物ではベンゼンは空孔内に強く包接されており、空気中あるいは減圧下でも脱離しない。従って、環の大きさを制御することにより、ベンゼンを可逆的に包接したり、不可逆的に包接することができる。 また、鎖状の三量体は1,2,4,5-テトラシリルベンゼン部分がジグザグに折れ曲がった構造をとり、折れ曲がりにできた空間にテトラヒドロフランを2分子包接する。このような包接様式は珍しく、ダブルピンセット型の包接作用を示すということができる。 これらの鎖状および環状化合物の紫外吸収スペクトルでは、1,2,4,5-テトラシリルベンゼン単位の数が増加すると、吸収は長波長側にシフトし、分子吸光係数が増加する。従って、これらの分子はケイ素-ケイ素σ軌道とベンゼン環のπ軌道のσ-π共役が分子全体に広がった系であることがわかった。
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