研究概要 |
有機分子がもつ反応性・物性および機能は,その分子の構造と密接な関係がある。有機分子固有の性質の発現が,その分子がもつ特徴的な幾何学的構造や電子構造とどのように関係するかを理論的・実験的な観点から明らかにしていくことは,新たな性質をもつ有機化合物の設計において極めて重要である。本研究では,このことと関連して次のようなことを行った。 1.温度可変低温希ガスマトリックス単離装置の設置 今回設置,温度可変低温希ガスマトリックス単離装置を設置した。クライオスタットとして岩谷瓦斯株式会社製クライオミニーD105,CW301を選んだ。試料を吹き付ける直前にヒーターを用いて加熱することにより,常温から500K近くの温度範囲の配座異性体のポピュレーションを11Kで凍結することが可能となる。 2.密度汎関数法を用いた新しい振動スペクトルの解析法の開発 本研究の実施過程において,希ガスマトリックス単離された分子種の振動スペクトルを精密に解析するための手法として,密度汎関数法を用いた一般的な振動解析法(Wavenumber-Linear Scaling法)を開発した。この手法はこれまでに実測振動の帰属がなされてきた500種以上の化合物について密度汎関数法を用いた振動解析を行うことにより見出した方法で,分子振動の実測波数値と計算波数値との比が計算波数値に対して直線的に減少するという性質を用いるものである。この振動計算法は国際的にも高い評価を受け,ワイリー社から出版される振動分光学のハンドブックの中に収録されることになった。
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