研究概要 |
シリル配位子を安定化し,その強いσ供与能を錯体の活性化に活かすことを目的として本研究を行い,ケイ素を配位原子として含むキレート配位子を持つ多数の遷移金属錯体の合成に成功した。その過程で,ヘテロ元素とケイ素で配位するキレート配位子を持つ錯体の新しい合成法として,下記の2つの方法を開発した。 (1)3員環シラメタラサイクルに対する分極した二重結合の付加 (2)6員環ビス(シリレン)錯体に対するアルコールの付加とそれに続くアルコキシシランの還元的脱離 どちらの方法においても,出発錯体自体が前例の無い構造を持っていたので,上記の反応および関連する反応について機構的研究を行い,興味深い結果を得た。 また極めて電子豊富な金属中心を持つ(2-ホスフイノエチル)シリルロジウム錯体を幾つか合成し,その中でRh[(κ^2-Si, P)-Me_2SiCH_2CH_2PPh_2](PMe_3)_2は第3級シランHSiMe_2Phの脱水素カップリングを室温で誘起し,ジシラン(SiMe_2Ph)_2を高収率で与えることを見出した。 新しいキレート型ビス(シリル)配位子xantsil[(9,9-dimethylxanthene-4,5-diyl)bis(dimethylsilyl)]を含む8族金属錯体(xantsil)M(CO)_4(M=Fe, Ru, Os)を合成し,それらの極めて長い金属-ケイ素結合を持つ構造をX線結晶構造解析により明らかにした。このうちRu錯体はトルエン中で加熱するだけで定量的にトルエン錯体Ru(xantsil(CO)(η^6-toluene)に誘導できた。このトルエン配位子は室温で容易に解離して高度に配位不飽和な活性種を与えることを見出した。この特異な反応性のために,このトルエン錯体は温和な条件で様々な別の配位子を持つ錯体に誘導でき,さらにHsiMe_2SiMe_3の重合/解重合の優れた触媒となることが分った。 以上の研究により,シリル配位子は当初予想したよりも強い,はっきりとした電子的効果を持っており,将来有望な支持配位子として発展しうる潜在能力を十分に持っていることが明らかになった。
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