研究概要 |
二核白金(III)錯体は珍しい酸化状態であるため化合物例も少なく,その反応性や機能はあまり調べられていない.本研究では,二核白金(III)錯体の反応性を明らかにすることを目的として,5-メチルピリジンチオラト架橋二核白金(III)錯体と水素との反応,および5-メチルピリジンチオラト架橋二核白金(III)錯体を触媒とするピリジンチオールの水素化分解について検討した.本研究により得られた知見は以下の通りである. (1)5-メチルピリジンチオラト架橋二核白金(III)錯体と水素とをDMF中,150℃で反応させると,架橋配位子がC-S結合の切断とともに水素化されて3-ピコリンが遊離する.この反応の水素圧依存性を調べたところ,水素圧の増加とともに生成するピコリンの量が増加した.(2)ピリジン-2-チオールのC-S結合切断に対する5-メチルピリジンチオラト架橋二核白金(III)錯体および関連錯体の触媒活性を調べた.その結果,5-メチルピリジンチオラトが架橋した二核白金(III)錯体は同じ架橋配位子を持つ二核白金(II)錯体より触媒活性が高いことが明らかになった.(3)ピリジンチオールのC-S結合切断における二核白金(III)錯体の軸配位子の影響を調べたところ,軸配位子がCI>Br>Iの順に触媒活性が減少することが分かった.5-メチルピリジンチオラト架橋二核白金(III)錯体のDMF溶液にピリジンチオールを共存させると,架橋している5-メチルピリジンチオラト配位子の一部がピリジンチオールと交換する.架橋配位子の置換されやすさは軸配位子がCI>Br>Iの順に減少しており,架橋配位子が置換されやすいほど触媒活性が高い.(4)D_2雰囲気下でピリジンチオールの水素化分解を行った.重水素化されたピリジンおよび3-ピコリンが^1H NMRで観測でき,触媒反応の機構を推定した.
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