研究概要 |
近年の分析化学の進歩に,分子レベルでの認識を利用した分離・検出法の開発がある。従来は濃縮率や分配比というバルクでの測定量で分子認識能力を評価していたが,新規の分子認識メカニズムを提案するには,その素過程である界面や表面で進行する会合体形成反応の詳細を分子レベルで明らかにすることが不可欠である。特に液液界面は多様な反応場となる可能性があるが,固体表面に比べ研究手段が非常に限られている。本申請課題では,新しい界面計測法として申請者らが開発した全反射励起界面サーマルレンズ法を改良,発展させ,カリックスアレンなどの分子認識能を示す分子の界面での挙動を平衡論と速度論の両面から明らかにすることを目的とした。 我々が開発した全反射励起界面サーマルレンズ法を従来より高機能で測定できるよう装置を改良,試作した。感度(単分子界面の1/10の濃度)や時間分解能(ミリ秒オーダでのリアルタイム測定)など基本性能は満足のいくものができた。 初めに,従来から進めてい鉄イオン-フェナンスロリン錯体生成反応につきさらに詳しく研容を進めた。界面層では以下のような現象が順次起こることがサーマルレンズ測定結果とシミュレーションにより確認された。(1)有機相からDPPが,水相からはFe(II)イオンが界面に向かっていく。(2)Fe(II)イオンは,界面と水相との間で平衡状態となる。(3)DPPイオンは界面に吸着する。(4)界面に吸着したDPPイオンとFe(II)イオンが反応して錯体を形成する。この段階が界面での抽出過程の律速である。(5)さらに順次2つのDDPが結合して,八面体の錯体を形成する。このように界面情報を直接測定できる全反射励起サーマルレンズ法では,分子レベルでの詳細な反応メカニズムを明らかにすることができる。 さらに,より高度な分子認識メカニズムが働いている界面反応へと応用するために光機能性部位を持ったカリックスアレンを合成し,その分光特性を調べた。分子会合体生成後の安定な状態での分子認識の相互作用は,カチオン-πなどが知られているが会合前の認識当初の反応進行のドライビングフォースは何であるか全く検討されたことがない。界面反応をけい光とサーマルレンズ測定により追跡し,より情報量を増やすことでそのメカニズムが解明されると期待される。残念ながら現時点でも,サーマルレンズ信号の検出に成功していないが,装置の改良などにより今後も研究を進めていく。
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