研究概要 |
酸性リン脂質欠損で増殖するlpp変異株のサプレッション機構:Lpp前駆体のプロセシングは酸性リン脂質完全欠損細胞では膜にどのような不都合を生じるのかを、Lppの構造遺伝子(lpp,)の発現誘導系により検討しlpp欠損変異によるサプレッションの機構を明らかにした。LppのC末端のリジンを欠失させることで架橋ができない変異Lpp(LppΔK)を発現するプラスミドを構築し、主要酸性リン脂質欠損細胞(pgsA30::kan, lpp-2)でその発現を誘導すると、野生型のLppを発現したときに見られる顕著な溶菌は、予想どおり起こさなくなった。野生型のLppの発現により溶菌をおこす細胞の膜は、外膜と内膜が分離できない。これはホスファチジルグリセロールが欠損するとLppの前駆体はプロセスできなくなるので、このため内膜に蓄積したLpp前駆体が、内膜に蓄積したままペプチドグリカンに架橋するため、外膜と内膜が分離できなくなることを明らかにした。Lpp前駆体とペプチドグリカンとの架橋は架橋によって生ずる分子の存在を質量分析によって同定することからも証明した。 酸性リン脂質を必須とする細胞機能に関与する遺伝子の検索:高温感受性を抑圧するサプレッサー変異株をminiTn10(cat)トランスポゾンの挿入による遺伝子破壊により48株分離し、配列決定とPCRによる挿入変異の確認、野生型遺伝子による相補性テストにより、変異部位を同定した。夾膜多糖合成遺伝子オペロン(cps)の転写を制御するリン酸リレー制御系rcsC, rcsB, yojNと活性化因子rcsF, rcsA、およびlgtに変異が起こることにより高温感受性が抑圧されることが確認された。これらの結果は、cpsオペロンの転写発現が酸性リン脂質欠損変異株で昂進しており、この昂進が高温感受性をもたらす主原因であり、rcsリン酸リレー系の遮断により高温感受性がサプレスされることを明らかにした。
|