研究概要 |
近縁種の共存のメカニズムを明らかにすることは,種多様性の保全に有効である.行動の多様性,特に配偶行動の多様性は近縁種間に生殖的隔離を生じさせ,近縁種の共在を助長すると考えられる.干潟に棲息するスナガニ類(スナガニ科とミナミコメッキガニ科)をモデル生物として,配偶パターンの多様性を研究した. スナガニ科シオマネキ属(Ocypodidae ; Uca)のカニは汎世界の熱帯・亜熱帯の海岸に80種以上が分布し,通常1つの海岸に複数種が棲息している.♂は巨大化した片方の鋏脚を振って♀に求愛する.この習性を利用して,♀の体色に対する♂の選好性を評価した.オキナワハクセンシオマネキUca perplexaでは体色が性選択されることが判明した.このことは,体色の変異が近縁種間に生殖的隔離を生じさせうる要素の1つであり,集団の分離を助長し,近縁種の共存に関与していることを示唆している. また,ミナミコメツキガニ科(Mictyridae)のミナミコメツキガニMictyris brevidactylusの配偶システムはシオマネキに代表されるスナガニ科カニ類とは全く異なっていた.本種では♂♀の活動様式が繁殖期には異なっていた.♀は自身の体を覆い隠す砂の屋根を作りながら,その下で摂餌をした.一方,♂は地表に現れ,活動を終えると♀が作ったトンネルに潜り込んで,地下で交尾をした.すなわち,♀が作った地表構築物をガイドポストにして配偶者選択が行われていた.今回の研究で干潟のカニ類の共存に多様な配偶システムが関与していることを示すことができた.
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