研究概要 |
3年間の研究期間の間に,和歌山県熊野灘において2頭,小笠原父島沖で4頭の計6頭のマッコウクジラに,また,天草長島海峡および通詞島沖で4頭のミナミハンドウイルカに吸盤装着型データロガータグを装着した.その結果,これまで知られていなかった両種の潜水行動の特徴を数多く明らかにすることができた. マッコウクジラは,ほとんどの時間を40-45分程度の400mから1300mへ到る長く深い潜水に費やしており,その大部分が採餌のための潜水と考えられる.潜水深度プロファイルは明瞭な底をもつU字型で,底部では,遊泳深度と速度が大きく変化し,時に速度のバーストが見られることから,餌生物を積極的に探査し,追尾して捕獲していることが判明した.潜水深度は夜間に浅くなった.これは,餌生物の鉛直移動によるものと考えられるが,深度により異なる餌生物を捕獲している可能性もある.この可能性は,潜水深度が増すにつれて,底部での遊泳速度が上がること,遊泳速度のバースト回数が増すことにより示唆される.深い深度では,より大型で密度の低い餌を捕食しているのかもしれない. ハンドウイルカについては,タグ装着個体が激しいリアクションを示すため,吸盤装着型タグの利用ができないと考えられていたが,これがかならずしも事実ではないことを明らかにした.ミナミハンドウイルカは,昼間は,休息や移動が主たる行動パターンで,主に夜間に50-60mに到る深く定期的な潜水を行っていた.夜間の潜水は,繰り返し同一深度に戻る傾向があることから,海底で採餌を行っていたものと考えられる.本種はマッコウクジラと異なり,ほとんどの時間を20mよりも浅い深度で過ごしていた.また,浮上時間中に対する呼吸回数が,どの個体でも極めて一定しており,この割合を利用して,群れサイズの推定が可能であることが示唆された.
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