研究概要 |
ボルネオ島,スマトラ島およびマレー半島の6カ所において,国立公園内の熱帯雨林およびその周辺の二次林において,アリ植物マカランガ14種の個体毎に植物,共生アリ,共生カイガラムシおよび特殊化した植食性昆虫(チョウ,タマバエなど)をそれぞれ採集した(Stuart Davies氏,Swee Quek氏,村瀬香氏,市岡孝朗氏の協力による). まず,アリ植物マカランガについては,核DNA上のITS領域の塩基配列と形態解析の組合せによって従来よりも解像度の高い系統樹が得られた.これを共生アリ(47コロニー)のmtDNA, COl遺伝子による分子系統樹とつきあわせたところ,従来得られていたよりも強い関連性が両系統樹の間に認められ,両者が共種分化してきたことがより強く支持された(Itino et al.2001). 一方,共生アリのサンプル数を増やして解析したところ,従来知られていたようなマカランガに対して種特異牲の高いアリの系統とは別に,さまざまなマカランガ種と共生しうるジェネラリストのアリ種が,特に二次林に多く存在することが判明した. 共生カイガラムシについては,4種18株のマカランガに居住するカイガラムシに関してミトコンドリアDNA(mtDNA)の16S rRNA遺伝子の一部245bpの塩基配列に基づき分子系統学的解析を行った.その結果,共生カイガラムシは7種類のmtDNAハプロタイプに分けることができた.4種のマカランガのうちMacaranga beccariana以外の3種についてはカイガラムシハプロタイプとの間にほぼ一対一の種特異性が見られた.一方,M.beccarianaには4種類のmtDNAハプロタイプのカイガラムシが居住していた.また,カイガラムシのハプロタイプのうち1つだけは他の6つとは系統的に大きく離れており,3種のマカランガに居住するジェネラリストであった. 7種類のハプロタイプのうち,もっとも遠いハプロタイプ同士の分岐年代は約1000万年前であると推定され,共生アリが適応放散したと考えられる年代とほぼ一致した.また,カイガラムシの系統樹とマカランガの系統樹の一致性を比較したが有意な一致性は得られなかった.
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