研究概要 |
根の重力屈性の重力信号伝達系には,信号を根冠から伸長域へ伝達する化学シグナルが存在すると考えられている。しかし,化学シグナルの実体,さらにはその供給源等については明らかにされていない。我々は,化学シグナルとして拡散性IAA,その供給源として根冠の細胞壁結合型IAA,さらにIAAの結合型から遊離型への解離反応(オーキシ可逆的代謝反応)Ca^<2+>によって制御されている仮説を提案している。本研究は,この仮説をin vivoとin vitro実験系で検証することが目的である。 [in vivo]トウモロコシ種子根の根端0-1mm切片をCa^<2+>キレート剤の5mM EGTAで処理した場合,細胞壁結合型IAAの含量は,EGTA処理区>非処理区であった。また,EGTA処理切片を[10mM CaCl_2+10^<-6> M IAA],あるいは10^<-6> M IAAだけで処理した場合,結合型IAA含量は,非処理区>CaCl_2処理区であった。この結果は,細胞壁中の結合型IAA含量がCa^<2+>に制御されている,つまりCa^<+2>はIAAを結合型から解離し非結合型(遊離型)IAAにする反応に関与していることを示している。[in vitro]そこで,より直接的にCa^<2+>の役割を調べるために,EGTAあるいは緩衝液のみで処理した0-1mm切片から分画した細胞壁標本を[EGTA+IAA]あるいは[CaCl_2+IAA]で処理した。緩衝液処理由来細胞壁標本では,両者の処理で,結合型と遊離型のIAA含量に差は見られなった。一方,EGTA処理由来細胞壁標本では,遊離型IAA含量は,CaCl_2処理区>EGTA処理区,結合型IAA含量は,EGTA処理区>CaCl_2処理区であった。この結果は,in vivoと同様の結果であり,Ca^<2+>は結合型IAAの解離反応を促進することを示した。 本研究より,重力感受細胞におけるシグナルと組織間化学シグナルの動向をリンクする反応の実体が明らかになった。
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