研究概要 |
1 モンシロチョウの日本産亜種とイギリス産亜種の雄の,同亜種および異亜種雌に対する生殖行動を実験的に検証した.その結果: (1)両亜種の雌標本を15cmの間隔で提示した場合,両亜種の雄はそれぞれ異亜種の雌より同亜種の雌により強く誘引され,より強い生殖行動を示した. (2)しかし両亜種の雌標本を2メートル離して提示した場合,それぞれの雄は異亜種の雌標本にも一定の生殖行動を示した. (3)両亜種の春型の雄と雌をほぼ同数,同一網ケージに放して亜種間交尾を試みた結果結果,一定頻度で亜種間交尾が起こることが分かった. (4)以上より,両亜種の雄はそれぞれ同亜種の雌をより強く選好するが,行動的性的隔離は完全ではない,と結論される. 2.日本産亜種は季節型によって雌の「まぼろし色」が変化するかどうか,また雄は季節型に依存して変化するかどうかを実験的に調べた.その結果: (1)日本産雌の翅の色は,短日型雌では長日型雌に比べ紫外色が弱いことが分かった. (2)一方,長日型雄は短日型雌より長日型雌をより強く選好するのに対し,短日型雄の両季節型雌に対する生殖行動には有意差が見られなかった.短日雄のこの配偶者選択特性は,長日型雌が得られない短日期に発生する短日型雄が配偶者を発見する上で適応的であると考えられる. 3.両亜種の系統分類学的関係を知るために,イギリス,ドイツ,中国(藩陽,長春),韓国(ソウル)及び日本(福島)のモンシロチョウの分子生物学的解析を行った.その結果: (1)ヨーロッパ産亜種とアジア産亜種は2つのクレードに分かれた. (2)日本産亜種はアジア産亜種の中でも,中国産亜種より韓国産亜種に遺伝的に近いことが分かった. (3)紫外色はアジア産亜種の共通祖先で過去一度進化した可能性が示唆された.
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