研究概要 |
本研究では,野生・飼育霊長類計12種を調べて3属12種のギョウチュウ(蟯虫)類を検出した.そのうち2種は新種であり,Enterobius (Colobenterobius) pygatrichus(キンシコウ寄生), Enterobius (Colobenterobius) serratus(テングザル寄生)と命名記載した.またジェフロイクモザル寄生のTrypanoxyuris (Buckleyenterobius) atelisとTrypanoxyuris (Oxyuronema) atelophoraを再記載し,亜属BuckleyenterobiusとOxyuronemaを復活させた.さらにタラポアン寄生Enterobius (Enterobius) bipapillatus,ニホンザル寄生Enterobius亜属蟯虫をわが国で初めて記録した.新大陸ザル寄生のTrypanoxyuris属には角皮表面に達しない痕跡的乳頭が雄尾部側背部にあることを見いだし,原猿類寄生Lemuricola属に見られる側背部の特殊乳頭の相同器官であろうと推定した.ヒト蟯虫2種説をmtDNA CO1領域,rDNA ITS2領域の塩基配列および発育過程の検討から最終的に否定した.この過程でヒト蟯虫感染によって死亡したチンパンジーの症例を報告し,ヒトには弱病害性とされるヒト蟯虫がチンパンジーでは高度の病害性を発揮することを証明した。これら霊長類寄生蟯虫の進化過程をmtDNA CO1領域,rDNA 28S領域の塩基配列から再構築し,新大陸ザルに寄生するTrypanoxyuris属が,旧大陸ザル寄生のEnterovius属や原猿類寄生のLemuricola属より早期に分岐したことを示唆する結果を得た.もし蟯虫類が霊長類と共進化したなら,これは原猿類が新猿類とまず別れ,後者から新大陸ザルと旧大陸ザルが派生したとする定説に反する所見である.
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