研究概要 |
強誘電体において,相転移温度が試料サイズが小さくなるとバルクとは異なる値をとることが知られている(サイズ効果).ペロブスカイト型強誘電体におけるサイズ効果の原因を解明することが本研究の目的である. チタン酸バリウム(BT),チタン酸鉛(PT),チタン酸ストロンチウム(ST)およびその混晶の微粒子を作成した.粒径は数ナノメータから数百ナノメータである.これらの試料についてX線回折実験を行い,表面における格子緩和の様子を調べた.その結果,粒径が小さくなるほど見かけの格子定数が大きくなることが分かった.この膨張の原因が表面における結晶格子の緩和のためであると考えて解析を行った.すなわち,緩和は表面で最大値をとり,結晶内部に向かって指数関数的に減少していくと仮定して緩和量を計算した.結果は,表面での緩和がPTで0.035nm,BTで0.015nm,STで0.001nmと,相転移点が高いほど緩和量が大きいことが分かった.BTとSTの混晶系では両端物質の中間の値であった. 格子緩和の原因を探るために,原子数25個から100個までのBTクラスターについてウルトラソフト擬ポテンシャル法による計算を行い,バルクにおける電子状態と比較した.その結果,微粒子(クラスター)においては電子密度は各構成イオン上に局在しており,バルクの場合と比べて共有結合性が小さくなっていることが分かった.R.E.Cohenによればペロブスカイト酸化物における強誘電性には共有結合性が強く関与している.このことと合わせて考えると,微粒子の表面付近では強誘電状体が失われていると予想され,これがサイズ効果の原因であると考えられる.
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