研究概要 |
当研究は共鳴散乱を伴うX線動力学回折に特徴的なボルマン効果を利用することによって結晶中の欠陥や格子歪みによるトポグラフのコントラストの変化から結晶の構造評価法の基礎的知見を得ることを目的とした。 そのためまず,共鳴散乱を伴うX線動力学回折の特徴を明らかにし,ボルマン効果特有の結果を他の場合と比較するための代表的条件を検討して実験した。その条件はX線分極率のフーリエ係数(実数部はX_<hr>,虚数部はX_<hi>)によって決まるu(=|X_<hr>|^2-|X_<hi>|^2)/(|X_<hr>|^2+|X_<hi>|^2))とv(=(1-u^2)^<1/2>cosδ,δはX_<hr>とX_<hi>の位相差)によって特徴づけられるので,その4点として(1)(u,v)=(1,0),(2)(u,v)=(0,-1),(3)(μ,v)=(-1,0),(4)(u,v)=(0,1)を選んだ。入射X線はエネルギーを任意に選ぶ必要性から,高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所・フォトンファクトリー(KEK-PF)の放射光を利用した。 上記条件は(1)ラウエの場合には,GaAs200反射においてGaとAsのK-吸収端付近において,(2)ブラッグの場合には,Ge844反射のK-吸収端の手前で近い条件が実現する。そこで試料はGaAsおよびGeの完全に近い結晶をシミュレーションで得た厚さまで薄くして作成し,トポグラフを記録した。その結果(1)では格子歪みに敏感なトポグラフ像や位相差δの変化によるコントラスト変化など,従来のトポグラフ像には全く観測されたことのない共鳴散乱に特有な現象が観測された。また,(2)でも入射X線のエネルギーによって消衰効果とボルマン効果が使い分けられ,結晶へのX線の進入距離の異なったトポグラフ像を得ることができた。 これらの結果を共鳴散乱動力学埋論を用いて解析した結果,共鳴散乱によるトポグラフのコントラスト変化と格子歪みとの間に一定の関係のあることが分かり、共鳴散乱を利用した構造評価の基礎的知見を得ることができた。
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