研究概要 |
平成12年度は耐摩耗性材料であるTiN薄膜をアークイオンプレーティング(AIP)法によって被覆し,アルミニウム合金の摩擦摩耗特性の向上を試みた.摩擦摩耗試験の結果,TiN被覆材の摩耗量は基材に比べて著しく低下するが,条件によっては摩擦摩耗試験中にTiN薄膜が破損・剥離し,一定のすべり距離後,耐摩耗性が著しく低下することが明らかになった.これを踏まえ,平成13年度はCrN薄膜を採用し,TiNとの比較からその有用性を検討した.基板材料としてはCu-Mg系アルミニウム合金JIS A2024を用い,AIP法によって,同じ膜厚となるようにCrNおよびTiN薄膜の被覆を行った,摩耗試験はボールオンディスク方式により行った.その際,相手材はベアリング鋼球で,すべり速度250mm/s,垂直荷重1-5Nとした. 摩擦摩耗試験の結果,CrN薄膜の摩耗量はTiN被覆材に比べて改善され,相手材であるベアリング鋼の摩耗量もCrN薄膜の方が少なくなっていた.さらに,CrN薄膜ではTiN薄膜で問題となっていた膜の破損・剥離を大きく抑制することが可能となり,TiN薄膜では1Nが限界であったのに対してCrNでは3Nまで耐えうることが明らかになった.薄膜の破壊,はく離過程を明らかにすべくスクラッチ試験を行った結果,CrN薄膜はTiN薄膜よりも剥離しにくいこと,き裂の発生が生じにくいことが明らかになった.さらに,摩耗痕の連続的な観察および摩耗部の元素分析の結果,CrN薄膜とTiN薄膜とも相手材であるFeが凝着しやすく,その凝着量はCrN薄膜の方が多い傾向が見られた.ボール側の摩耗痕の観察を所定のすべり距離ごとに行ったところ,相手材がTiN薄膜の場合はアブレッシブ摩耗の痕跡が生じているのに対して,CrN薄膜を相手材とした場合はすべり距離の増大にしたがって摩耗痕がなめらかになっている様子が観察された.前述のボール摩耗量の結果とあわせて考えるとCrN薄膜では,ボール材と硬度の高い薄膜とのアブレッシブ摩耗が生じがたいため,TiN薄膜よりも摩耗量が減少したと考えられる.
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