研究概要 |
平成12年度には,スチールコードの圧縮疲労破損は屈曲疲労破損の形態と同じであることがわかった.これは,スチールコードの座屈強度が低く,容易に屈曲してしまうことから考えても妥当なものと考えられる.そこで,13年度は,東京製綱で作成された構成が異なる4種類のスチールコードを用いた屈曲疲労試験を行い,その破損形態や疲労寿命とコード構成の関係を調べた.その後,それらの現象を説明する力学モデルを提案し,耐久性の高いスチールコードの構成について検討した. (1)屈曲疲労試験 スチールコードの素線径を一定にして,コード構成を1×12,1×12+Er,3+9および4×3とした試料の屈曲疲労試験を実施した.その結果,疲労寿命は3+9で最も長く,次いで1×12,1+12+Wr,4×3であった.破損形態を観察したところ,疲労破損は全てコードの外周側から発生し,スチールワイヤどうしの接触に基づく摩耗やフレツチング疲労ではないことがわかった.1×12+WrのWrはWrの撚りピッチに依存した間隔で破断し,それにともなって1×12の外周部のワイヤも破断していた.このことから,Wrは疲労寿命に対して悪影響を持つことがわかった.また,ワイヤ径は各構成において同一であることから,生じる曲げ応力は同一である.このことから,構成に伴う疲労寿命の差は,ワイヤ間の干渉に伴って発生するワイヤ軸方向応力が関係すると考えられる. (2)力学解析 そこで,各ワイヤに生じる軸方向応力について考察し,疲労破損の傾向を説明する力学モデルについて検討した.各ワイヤが接触した状態で屈曲すると,ワイヤ間には軸方向に相対変位が生じて擦れる.しかし,疲労試験後の観察ではワイヤ間には大きく擦れた痕跡はなかった.そこで,ワイヤ間の相対変位は擦れとして生じず,ワイヤ間は密着した状態で互いに軸方向力を及ぼしあっていると仮定した.各ワイヤにはこの軸方向力と屈曲に伴って生じる曲げ応力の和が作用する. この仮定に基づいた力学モデルを提案し,1×12,3+9,および4×3の各構成に対して軸方向力を算出した.その結果,軸方向力は4×3で最も高く,次いで1×12,3+9の順であることがわかった.この順序は,前述した疲労寿命の順序と同一であり,本モデルの妥当性を示すものと考えられる.したがって,今後は,本力学モデルを用いて耐久性の高いタイヤ用スチールコードの構成を検討できるものと考えられる.
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