研究概要 |
人工関節に使われている超高分子量ポリエチレンの摩擦熱による疲労摩耗への影響を調べるための基礎研究をおこなっている.平成12年度は接触部周辺の潤滑液温度の変化を,平成13年度は赤外線放射温度計により滑り接触域内の温度を直接測定した.その結果,接触域内では約10℃程度温度上昇することを明らかにした.このことはBergmannらによるin vivoでの測定結果とほぼ一致している.平成14年度は接触面温度を支配する摩擦係数の材料による組合せや,速度,環境温度,接触圧力による影響を調べた.その結果,摩擦係数は温度や速度にはほとんど無関係であるが,接触圧力によって大きく変化して,接触圧力の増加とともに摩擦係数が低下することを確認した.Wangらの報告による接触圧力と摩擦係数の関係式にデータを当てはめたところ,まったく一致しないことが分かり,接触条件を組み込んださらなる一般式に改善する必要のあることを指摘した.一方,材料による組み合わせ方でも摩擦係数は大きく変化して,ポリエチレンを動かす場合と,メタルやセラミックスなど硬質側を動かす場合では全く異なり,ポリエチレン側を動かした場合の摩擦係数は,硬質材料側を動かした場合の摩擦係数の2倍以上になることが分かった.また平均接触圧力だけでなく接触面の圧力分布形状が摩擦係数に大きく影響すると仮定して,形状の異なる試験片と,形状を異にした試験片ホルダーを幾つか試作して対応する圧力分布はFEMで計算して推定した.それらを使って実験した結果,入口側の圧力が低く,出口側および入口部を除く接触域周辺部の圧力の高い場合に摩擦係数の小さくなることが分かった.摩擦係数の低下する原因は潤滑液や潤滑に有効なタンパク質などがしゅう動部入口部から導入されやすいが,排除されにくいため,潤滑材として有効に機能するためと考えられ,人工関節を設計する上で活用できる発見と考えられる.
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