研究概要 |
平成12年度においては,Subgrid scale (SGS) estimationモデルの数種類の定式化の比較を行い,最も予測精度の高い定式化の選択を行った.このため,非圧縮性一様等方性乱流のDirect numerical simulation (DNS)のデータを生成し,このDNSデータにフィルター操作を施すことにより算出されたSGS応力の厳密値とそのモデルによる予測値との相関を比較する,モデルの直接的な検証を行った.SGS estimationモデルの重要な骨格を成す,grid scaleの格子点数の2倍に拡張された格子上での速度場の見積を行う際に用いられる,補間法により拡張された速度場にNavicr-Stokcs方程式の非線形項を介する修正法の比較を,grid scaleとSGS間のエネルギー伝達をつかさどる機構の幾何学的構造分類の観点から行った.この結果,単純な非線形項を介した修正を行った場合[J. A. Domaradzki et al.,Phys. Fluids 11(1999), Model 1]では,ストレインが渦度に卓越する領域の貢献が過大評価され,渦度が関与する領域が正確に評価されない事を示したが,この欠点は,見積もられた速度場を非圧縮の条件を満足する成分への射影を行うこと(ヘルムホルツ分解モデル,Modcl 2)により解消された.更に,Navicr-Stokcs方程式を数ステップ時間前進して見積を行う方法を用いたところ(Truncated Navier-Stokes(TNS)モデル,Model 3),更なる改善が得られた.次に,回転の効果を含む実際のLES計算にモデルを適用し,Model 2と3が従来のモデルに比べ高い予測精度を有する事を示した.平成13年度においては,SGS estimationモデルの工学的に実用な計算への導入を試み,差分法を用いてフィルター操作の反転を行う方法と速度場の補間を行う方法を検討した.フィルターの反転については,Approximate deconvolution procedure(Horiuti(1999),Stolz et al.(1999))が有効である事を示した.しかしながら,この方法では,差分法の精度を上げるにつれ,Aliasing誤差の影響が大きくなり,計算の不安定性が発生する事が明かとなり,この不安定性の消去には,Relaxation term(Stolz et al.(1999))の付加が有効である事を示した.この項を付加したApproximate deconvolution procedureを併用したSGS estimationモデルによるLES計算を行い、実用計算への有効性を示した.更に,幾何学的構造の観点からの検証を高レイノルズ数において行い,Model 3がModel 2に比べ,特に渦度がストレインに卓越する領域における予測精度を改善する事を示した.次に,SGS応力の固有ベクトルとgrid-scaleストレイン・レイト・テンソルの固有ベクトルとのalignmemを検証し,DNSによる厳密値では両ベクトルは非平行な配置にある事,Model 2と3がこの非平行性を正確に予測する事を示し,同時に,平行性を仮定する渦粘性係数モデルの限界を明かにした.
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