研究概要 |
高温超伝導体の多くは,本来結晶学的に層状構造をとる.そのため強い磁場方向依存性を示し,結晶のc軸に平行な磁場での臨界電流J_cは低い.磁界下での線材設計をする場合には,J_cの異方性を考慮しなければならず,高温超伝導線材の応用範囲を制限する要因の一つである.本研究では,Y系高温超伝導体の電力ケーブルへの応用を図る基礎研究として,Y系酸化物超伝導薄膜をスパッタ法により作製し,臨界電流密度の観点から製作条件,基板材質効果,結晶性および表面構造を中心に研究を実施した. YBCO相のMgO(100)基板上での生成と配向は,主に基板温度により支配される.ほぼ900℃で,臨界温度T_cが約90Kのc軸配向膜が成長する.さらに温度が上昇すると45°-rotated結晶粒が現れ,T_cは維持されるもののJ_cは急激に低下する.また,成膜後の熱処理条件は,T_cの遷移幅に影響を与える.基板表面状態及び基板材質もc軸配向膜成長に影響を及ぼす。SrTiO_3(100)基板や酸エッチング表面処理したMgO(100)基板上に作製されたYBCO膜表面は,より規則化したピラミッド状形態を示し、c軸配向度とJ_cは向上する。これらのJ_cは,3.0〔MA/cm^3〕以上の高い値を示し,世界的なレベルに達した. 高J_cを達成するためには,高二軸面内配向したc軸配向膜を成長させなければならない.そのためには,基板温度を高い精度で制御し,YBCO相と同種な基板材を使用し,その表面の歪み層を除去する必要がある.
|