研究概要 |
低密度ポリエチレン(PE)に以下に示す添加剤を混入したフィルムを作製して、直流絶縁破壊強度を向上させることを試みた。使用した添加剤は、芳香族系のものであり、Anthracene(As)、9,10-dibromo anthracene(Br_As)、Perylene(Pr)、Perylene-3,4,9,10tetracarboxylic-dianhydride(Tc_Pr)、などである。作製したフィルムの厚さは6μm〜18μmである。 その結果、これら添加剤を用いることにより直流絶縁破壊強度が上昇することを実験的に証明した。 たとえば、無添加のポリエチレンフィルムの-20℃から室温における絶縁破壊強度は約6MV/cmであるのに対して、Asを添加したものはそれより約45%以上高い絶縁破壊強度を示した。また、AsとBr_As、PrとTc_Prの絶縁破壊強度を比較すると、骨格となる分子に基が付加されているものの方が高い値を示す。 これらの結果を踏まえて、添加剤入りフィルムのTSC(熱刺激電流)および示唆熱分析(DSC)を測定することによって、添加剤のトラップサイトの状態について検討を行った。また、添加剤を加えることによるPEフィルムの高次構造への影響について主に検討を行った。 実験の結果、フィルム試料のTSCのピークが現れる温度が、添加剤の混入によって3〜5℃程度高温側にシフトすることがわかった。また、ピーク値自体は、無添加フィルムと比べて添加剤入りフィルムは約3倍程度大きくなることがわかった。トラップレベルは無添加フィルムの場合は約3eVであるのに対して、添加剤入りの場合は約4.5eV程度となる。一方、DSCの測定結果からは、無添加フィルムにおける曲線と添加剤入りフィルムの曲線とには顕著な差異が見られなかった。すなわち、フィルムの結晶構造自体は、添加剤の混入による影響は見られないことになる。 また、添加剤分子の持つπ電子の励起効果に基づくキャリア電子の吸収効果については、UV吸収スペクトルの測定結果を検討したところ、それほど顕著ではないものと判断された。 以上の結果から、本研究に用いた添加剤によるPEフィルムの絶縁破壊強度の向上は、添加剤分子の持つトラップサイトに基づく効果が顕著に発揮されているものと結論づけられた。
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