研究分担者 |
田中 敏明 札幌医科大学, 保健医療学部, 助教授 (40248670)
鈴木 康夫 札幌医科大学, 医学部, 助教授 (40221329)
伊福部 達 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (70002102)
和田 親宗 北海道大学, 電子科学研究所, 助手 (50281837)
恩田 能成 (株)MRシステム研究所, 札幌分室, 研究員
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研究概要 |
人工現実感(VR)は,医療・福祉・教育など多岐にわたる分野での応用が期待されている.そのため,VR技術を利用したシステムの構築には,安全性や快適性など,様々な人間特性への配慮が欠かせない.しかし,実際には,これらの特性を十分に考慮したVRシステムというものはほとんどなく,「酔い」などの生体にとって好ましくない反応を防ぐ安全なシステム開発のための設計指針づくりが望まれている. このような背景のもと,私たちは,VRシステムにおいての「酔い」の発生の予防あるいは軽減する方法を探ることを目的とする研究課題に着手した.まず,本研究に必要な実験システムとして,視覚刺激・前庭感覚刺激・聴覚刺激を自在に制御・呈示できるVR刺激提示システムと,その時の生体反応をモニタする評価システムを開発した.次に,これらのシステムを利用して,「酔い」にかかわると考えられる視覚誘導性の自己運動感覚(Vection)が,前庭刺激や聴覚刺激などの視覚以外の異種感覚情報によって制御あるいは抑制が可能かについて調べた.その結果,回転刺激や音刺激のような異種感覚入力によって,自己運動感覚を減少させ得ることがわかった.また,上記と並行して,視覚ディスプレイ(Video See-through HMD)における時間的あるいは空間的な「ずれ」の生体影響を調べた.その結果MR環境下で細かな作業を行う際には,奥行き情報をもつ3D-HMDを用い,フレームレートは少なくとも30fps以上に設定する必要があるというHMD設計指針が得られた.この他にも本研究過程からは,(1)HMDの長時間利用による視機能への影響,(2)広視野ディスプレイによる視運動刺激が平衡機能に与える効果,(3)高齢者のバランス機能に対する移動音像の影響,(4)眼球の回旋性眼振に関する新知見,(5)透過型HMDを利用した聴覚障害者のコミュニケーション支援装置の開発,などの副次的な成果が得られた. 以上,自己運動感覚に着目したバーチャルリアリティ酔いに関する生体情報工学的研究で得られた知見や技術は,人工現実感やマルティメディアの分野で利用されるだけでなく,高齢者や身体に障害を持つ人たちのためのリハビリテーションや感覚代行などを含めた,広範囲のヒューマンインタフェースの開発分野で活かされるものであると考えている.
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