研究概要 |
本研究では,移動通信の情報伝送量を飛躍的にのばすために,主に多値振幅位相変調方式を移動通信に適用する場合に生じる様々の困難を克服する技術の検討を行った。 移動に伴って発生する様々のフェージング環境において,確実な受信を可能とするため,搬送波同期を前提としない方式で,なおかつそれと遜色の無い誤り率特性を示す多シンボル遅延検波を核とした受信方式を検討した。前年度までに明らかとなっていた問題点,即ち伝送路の特性を統計的に推定して伝送路特性を補償する形の受信形態では,フェージングの速度が高くなると,どうしてもエラーフロアが生じてしまうことを改善するため,伝送路特性ではなくフェージングの速度を直接測定し,それを基に受信信号の自己相関を考慮した最尤系列推定方式を構築した。その受信特性は,相当速いフェージング通信路でもエラーフロアが発生しないという理想的なものである事を明らかにした。しかし,計算量的に受信機の負荷が相当大きい事が明らかとなり,次にこの点に関して検討した。尤度計算の高速算法を提案し,これを用いることにより計算量は観測ブロック長の3乗オーダから2乗オーダに収まり,更に,Mアルゴリズムの適用によって,パスの探索数も観測ブロック長の線形オーダに収まる事から,実用的な計算量に収まったと考えられる。 次に,ターボ符号化の適用を検討し,ディジタル情報の伝送に関して実用的な誤り率を得るための検討を行った。ターボ復号に関して,受信信号の自己相関を考慮した多シンボル遅延検波の尤度をスライドさせながら適用する方式を提案した。これにより,各シンボルの尤度が均一化し,ブロックで用いる場合と比べ,約3dBの改善効果があることを明らかにした。これにより,非同期のシステムでありながら,ターボ符号特有の優れた誤り率特性を示す事を明らかにした。 以上により,多値振幅位相変調方式を移動通信に適用しても,十分な誤り率特性が確保できることを明らかにした。
|