研究概要 |
兵庫県内の既存鉄骨造体育館に関する資料を収集したところ,1981年以前に竣工した体育館では,耐震診断の基準となる構造耐震指標(Is値)および保有水平耐力に係わる指標(q値)が目標値を大幅に下回っている例がほとんどであった。これらの鉄骨造体育館の耐震性能を向上させるためには,ブレース材の交換または新設による耐震補強を行っている例が多く,また,露出柱脚の補強方法には,あと施工アンカーが使用されている。しかし,あと施工アンカーによる補強効果については不明な点が多いため,ブレース付骨組を用いた構造実験を行った結果,以下の新たな知見を得た。 1.全試験体とも,既存アンカーボルトの破断により破壊モードが決定した。 2.あと施工アンカーにより補強した試験体では,あと施工アンカーのコーン状破壊に起因すると考えられる基礎コンクリートのひび割れが観察された。 3.実験終了時のあと施工アンカーについては,基礎コンクリートに埋め込まれた部分を含めて,顕著な曲げ変形が観察された。このような変形状態では,基礎コンクリートとの間に空隙が生じ,ボルト上部の空隙範囲では樹脂による付着力を期待できなくなる。付着力の喪失に伴いボルト下部のコンクリートの応力状態が厳しくなり,コーン状破壊を誘発した可能性がある。 4.あと施工アンカーの補強による引張側柱脚の降伏引張耐力の増加は計算値と一致し,最大引張耐力の増加は計算値を上回った。 5.せん断耐力に関しては,無補強試験体の場合も含めて,全ての試験体において,実験値は計算値を下回った。これは,繰返し加力に伴い,ベースプレートと基礎コンクリートの間のモルタル充填層が破壊し,アンカーボルトに曲げが作用したため,柱脚のせん断耐力が低下したものと考えられる。 以上の実験結果より,あと施工アンカーにより耐震補強された柱脚が引張力を受ける場合のせん断耐力の評価には,あと施工アンカーの曲げ変形およびコンクリートの支圧破壊を考慮する必要がある。
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