研究概要 |
本研究の主な成果の概要は次のようにまとめられる。 まず借家の居住水準にみる地域差について,地域別の居住水準に注目して分析したところ,いずれの地域も平均的な居住水準は上昇しているものの,その標準偏差には大きな格差が発生しつつあることが明らかとなった。この現象は特に大都市など都市化地域における世帯の分解過程が作用していると考えられ,居住水準の分布において新しい傾向が発生してきていることを示すものと思われる。また住宅の規模に関して,持ち家においては非居住室面積が従来の地域差を維持する一方で,借家においては地域差が縮小する傾向にあるものと考えられる。 次に地方都市部における住宅事情の変化について,世帯の小規模化は全国的にみられる現象であるが,その変化には大きな地域差のあることがわかった。これは一方で世帯小規模化の全国的進展を示し,他方で各地の世帯規模構成にもともと地域的特徴があったことの結果でもある。また,民借世帯の移動率には地域差がみられ,民営借家世帯の移動率は大都市部よりも地方都市部において比較的高い。また,世帯主の年齢階級に注目したところ,そうした地域差を生み出す要因としては40歳以上の中高齢階級における移動率の違いが強く作用していると考えられる。 バブル経済期以降の借家供給拡大を背景とした借家フローの急増は,地方都市部において新たな借家ストックを形成している。これが需要構造の変化と互いに原因となり結果となって,今日の地方都市部における居住を形成している。しかしながら地方都市部では「良質な借家」に関する議論が積極的に行われていない。分析により明らかとなった活発な移動,地方都市部における借家ストックの増大あるいは全国的傾向としての住まい方の変化を考慮した場合,地方都市部における借家について,より豊かな像を描く必要があるように思われる。
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