研究概要 |
この研究は,ネパール王宮における各建築の小尖塔ガジューの類型化を行い,その形態的特質を明らかにするものである。研究対象は,カトマンズ盆地に現存する中世マッラ王朝以来の王宮の建築群であり,それらを構成する層塔およびチョク建築の屋根上に立つガジューを扱っている。 ガジューはいくつかの真鍮製の部品からなり,この各部品の形に着目すると,シカラ形式・ベル・チャイティヤの3つの形式に整理される。層塔マンディールに付くガジューはベル型の意匠をもつものが多く,マンディールの外観意匠を特徴づける要素であり,各建物の本尊を表象したものと考えられる。 カトマンズ王宮のガジューは,部位の組合せから,ベル型がさらに3形式に細分され,一重のベル,アマサを介して二重のベル,上部に強調したカラサを載せベルを省略したものである。マンディールとバワンでは一重ベルを,石造のシカラではベルを省略したものを,長方形平面をもつチェン,中庭形式のチョク,仏教僧院バハ,仏教僧院バヒでは二重のベルを,屋根頂部に飾る。その意匠は,相輪のみの簡略なものから複数のガジューを連ねるもの,またガジューの上にもう一つガジューを重ねるものなど,より荘厳なものへと展開する。この相違は建物の性格によるものとみられ,世俗的な建築とマッラ王家あるいは王自身の建築では異なる形式のガシューを採用する。 なお,ガジューの系譜を究明する観点から,仏教寺院および水場内に現存するチャイティヤの類例を収集し,パタン市におけるチャイティヤの意匠および水場の分布を明らかにした。
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