研究概要 |
【目的】低濃度のイットリアを含むジルコニアは高温より急冷することにより室温で準安定な正方晶相が得られる.この準安定な正方晶相は200〜300℃で保持すると等温的に変態する一方,液体窒素温度までのサブゼロ冷却によりバースト的な非等温変態を起こす.本研究では両者の変態モードについて,変態挙動に及ぼすイットリア濃度,結晶粒径および試料サイズの影響を定量的に調査し,核生成機構に関する知見を得ることを目的としている. 【実験方法】組成範囲1.4〜1.6mol%Y_2O_3,結晶粒径0.5〜1.0μ,試料直径0.3〜0.8mmの微小球状試料を作製し,これらの試料について等温保持およびサブゼロ冷却によるt-m変態挙動を測定観察した.等温変態挙動は自家製のミクロ膨張計を用い,サブゼロ冷却によるMb温度は試料が変態によりはじける瞬間をビデオ撮影することにより決定した. 【実験結果】等温変態は潜伏期間を経たのち開始し比較的短時間でほぼ100%完了した.変態開始時間はTTT線図において典型的なC曲線を描く.C曲線はイットリア濃度の低下および結晶粒径の増大に伴い顕著に短時間側へとシフトした.また,変態開始までの時効処理時間には加算性が見られることより,潜伏期間中に核の成長が起こっていることが示唆された.このことはマルテンサイト変態の核生成が単一の確率過程で起こるものではないことを意味する. ザブゼロ冷却によるMb温度もまたイットリア濃度の低下および結晶粒径の増大に伴い顕著に上昇した.等温変態の開始時間に対する影響も含め,イットリア濃度の減少と結晶粒径の増大は正方晶相の安定性を顕著に低下させる効果がある.一方300〜800μmの試料サイズに対しては,Mb温度の変化は僅かであった.このことはMb温度のワイブル係数が80と極めて大きいことと一致する.また,同種の試料の破壊強度のワイブル係数が6程度であることを考慮すると,破壊限となる欠陥とマルテンサイトの核となる欠陥とは本質的に異なるものであることを示唆する.
|