研究概要 |
材料の力学的特性について,従来より種々の尺度での研究が展開されているが,特に近年の微視的構造解析手法や大容量高速計算手法の発達に伴う原子レベルでの議論の活性化には目覚ましいものがある.しかし一方で,このことは,それら微視的研究成果が,巨視的に捉えられる種々の現象やパラメータとどのように結びづけられるかという「スケール問題」を新たに際立たせることになった.このため,両者を関連づける多くの努力がなされてきているが,なおそれは極めて不十分な状況にある.その要因の一つには,力学物性研究の対象が一般に非常に「不均質」な「中間(メゾ)構造」を有し,両者の連結が,他の物性に比べ容易でないことにある.本研究では,強加工された鉄系合金結晶中のメゾスケール・テクスチャーの解明を目指し,数100μmにわたる観察視野での転位集団分布の変化とその結晶方位変化の様相を,透過電子顕微鏡法等を用いて解析している.本研究では強加工された鉄系合金結晶(310Sステンレス鋼並びにFe-Si合金結晶)の中で発達したメゾスケール・テクスチャー(数10〜数100μmに及ぶ転位集団組織の変化とそれに伴う結晶方位変化)に焦点をあて,研究を行った.研究実績の具体的概要は以下の通りである. (1)310Sステンレス鋼において特に剪断帯,変形双晶等の不均質なメゾ構造の形成過程を透過電顕法で明らかにした.その結果,結晶粒内には剪断帯と呼ばれる不均質変形組織が多く形成され,その内部にはサブミクロンの微細粒組織が形成されている,また,結晶粒界に沿っても同様の微細粒組織の形成を新たに見い出した.加工とともにこれら微細粒組織が拡張していき,材料の全体的な微細粒構造が形成されていく. (2){111}<112>並びに{001}<110>初期方位を有する2種類のFe-Si合金結晶試片に強加工(真歪〜2.0)を施し,これによって形成された転位集団構造とそれに伴う方位分布変化を,透過電顕法を用いて比較観察した.{111}<112>結晶ではラメラー構造を有する加工硬化の著しい組織が発達し,さらに剪断帯の形成も見られる.それに対し,{001}<110>では,比較的転位密度の低い転位セルの形成が見られるだけで,加工硬化は小さい.これら転位構造の違いは,その後の再結晶挙動の相違と直接関連することを指摘した.
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