研究概要 |
液膜型イオン選択性電極(ISE電極)は、目的イオン濃度を迅速かつ簡便に測定できるデバイスとして広く汎用されており、各種カチオンに対応するISE電極がイオンセンサーとして開発されている。感応部でイオンに応答する感応物質の分子設計の容易さから、液膜型電極の感応物質開発は非常に盛んに行われている。分子設計において基本となるのは、(1)配位原子の種類、(2)イオンサイズに適した空孔サイズ、(3)感応物質の脂溶性、の3点である。しかしながら、(1)~(3)を基本とする分子設計では、配位性やイオンサイズの似通っている遷移金属イオン間の識別能を向上することは困難なため、遷移金属イオンに対応する精度の良いISE電極は非常に少ない。ポルフィリンは、環状ピロール四量価体で、生体内では鉄やマグネシウムイオンと金属錯体を形成し、酸素の運搬、光電子移動反応などの様々な反応に関与している。その一方で、ポルフィリン誘導体は、現在、その液晶としての物性も注目されている。本研究では、ポルフィリンの遷移金属イオンとの錯形成能に着目し、遷移金属イオンセンサーの開発を目的とした。本研究では、さらに、液晶の分子配列とイオン識別能の相関についても検討・評価することにした。感応物質の溶性の向上と液晶性の発現を狙い、本研究では、長鎖アルキルC_<12>H_<25>をパラ位に持つフェニル基を導入したポルフィリン誘導体(5,10,15,20-テトラフェニルポルフィリン)を感応物質として合成した。この化合物の液晶性発現は、既に、研究分担者らによって確認されている。イオン識別能は、実用的なISE電極を構築し評価した。その結果、無置換の5,10,15,20-テトラフェニルポルフィリンと比較したところ、本研究のポルフィリン誘導体の方が、電位応答が早く、電位安定性も優れており、また、最も深刻であった水素イオンに対する妨害が100倍近く改善されることが明らかとなった。遷移金属イオンの中でも銀イオンに非常に高い識別能を発揮し、7ヶ月を経てもその性能は衰えなかった。
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