研究概要 |
五酸化バナジウムキセロゲル(VXG)の層間には式量当たり約0.3個のオキソニウムイオンが存在し,これらは種々のカチオンと置換することが出来る.本研究ではこのオキソニウムイオンをNa, Ca, Laおよびトリメチルプロピルアンモニウム(TMPA)イオンに置換することを試みた.Na, Ca, Laイオンの価数はそれぞれ1,2および3価であるため,層間にはそれぞれ0.3, 0.15および0.1個のイオンが導入された.一方,TMPAイオンは1価のイオンであるが,置換後の試料には0.2個までしか導入されなかった.これは,層間におけるTMPAイオン同士の立体的な障害によって0.3個まで置換反応が進まなかったためと考えられる.従って,この試料については0.1個のオキソニウムイオンが残存していると考えられる.これらの試料をさらに加熱真空乾燥したものの粉末X線回折測定から,これらの試料はいずれもVXGに特徴的な異方性の強い層状構造を維持しており,その層間距離は置換に用いたイオンの大きさに依存して変化した.Na, CaおよびLaのイオン半径はほぼ等しいため,これらのイオンを導入した試料の層間距離はほぼ等しくなったが,TMPAイオンを導入した試料では層間距離はこれらよりも広くなっていた. これらの試料をLi二次電池正極とした三電極式セルを用いて定電流放充電測定を行った.いずれの試料においても充分低い電流密度では式量当たり約2個のLiが挿入されることが確認された.しかし,高い電流密度では高い価数のイオンを導入した試料ほど挿入量が減少する傾向が見られた.Na, CaおよびLaを導入した試料に関して,層間に存在するイオンの数が少ないほどLiイオンの移動度が低くなっているが,これはイオンの数が少なくなる代わりにイオンの電荷密度が高くなり,Liイオンとの静電的相互作用が大きくなるためであると考えられる.一方,TMPAイオンを導入した試料については,層間のTMPAイオンの電荷密度が低いため,Liイオンとの静電的相互作用が小さいと考えられる. 以上の結果から,VXGにTMPAイオンを導入した試料は高出力密度のリチウム二次電池正極材料として用いることが出来ることが示唆された.
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