研究概要 |
本研究では、比較的蒸気圧の低いMO試薬を原料とするMOCVDについて、あらかじめ所定の組成に合わせた混合原料を1っの容器中ですべて気化させてから徐々に供給することにより、膜作製時の蒸気組成が全行程にわたって一定となり、得られる膜の組成の制御および再現性が得られると考え、新たな観点から単一蒸発容器を持つ多成分膜堆積用MOCVD装置の開発を行った。その後、この装置を用いて酸化物磁性体であるフェライト膜((Ni,Zn)Fe_2O_4,(Ni,Zn,Cu)Fe_2O_4)、次世代のメモリーとして期待されるPbTiO_3(PT),Pb(Ti,Zr)O_3(PZT)膜、および不純物をドープした酸化物半導体膜(ZnO : Cu, In, ITO)の作成を行い、原料混合比と生成膜組成の再現性との関係、および膜の性質について検討した。 フェライト膜:Ni(acac)_2、Zn(acac)_2、Fe(acac)_3を原料に用いて、3成分系薄膜(Ni,Zn)Fe_2O_4が得られた。この際、原料混合比と生成膜組成の間には組成の再現性が確かめられた。さらに、4成分の(Ni,Zn,Cu)Fe_2O_4薄膜も同様にして組成の再現性よく得られ、保磁力の向上が見られた。 PT、PZT膜:PT膜については、化学量論組成の膜を得ることができた。また、3成分のPZT膜については、Zrの含有量が少ないものの、ペロブスカイト単一相の膜が得られた。 ZnO : Cu, In,およびITO膜:これらの膜についても、再現性よく薄膜を得ることができた。特に、ZnO : InおよびITOでは原料組成と電気抵抗の間に再現性が認められた。 以上、単純な構造の装置により、複雑な成分からなる薄膜が作製できること、高価なMO試薬を効率よく膜の堆積に利用できることなど、工業的にも充分に意義のある結果が得られた。
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