研究概要 |
有機合成において,分子中のアルケン部分に選択的にホルミル基を導入し,それに基づいてアルドール反応等に展開する方法は,もっと活用されてしかるべきである.この観点から,キラルなアリルアルコール系の基質でロジウム触媒によるヒドロホルミル化を検討した.その結果,予期した水酸基配向によるジアステレオ選択性とは逆の選択性が支配的であった.これは同じ基質で,ロジウム触媒水素化が著しい水酸基配向性のジアステレオ選択性を示すことと対照的である. このような経緯を経て,キラルでない基質4-t-butylmethylenecyclohexane(1)をRh(acac)(CO)_2を触媒前駆体に用いてヒドロホルミル化すると,得られるジアステレオマーtrans-(2),およびcis-4-butylcyclohexylacetaldehyde(3)の生成比が,合成ガスの初圧によって著しい変動を受けることを見出した.すなわち,初圧が5-9.5MPaの間では,アルデヒド生成の選択率は高いものの,ジアステレオマー比2:3は初圧5MPaでの85:15から高圧になるにつれて一様に低下した.これは,触媒活性種[RhH(CO)_n]が基質1のアキシャル側とエカトリアル側からの競争的付加の段階が速度支配で進行するものと理解できる.一方,初圧が2.5-05MPaの間では,基質1の異性体4-t-butyl-1-methylcyclohexene(4)の生成,関連する位置異性体アルデヒドcis-4-butylmethylcyclohexylacetaldehyde(5)の生成が,初圧を低下させるに従って著しく増大することが認められ,かつ,ジアステレオ選択性2:3は92:8と最高に達することが明らかとなった.これらの事実は,基質1への触媒活性種[RhH(CO)_nの付加段階が熱力学支配となり,可能な中間体の平衡混合物を経てアルデヒド生成に至るものと理解される. 低圧下でジアステレオ選択性は良好であるが,基質1の異性化が激増するというジレンマは,Rh(acac)(CO)_2-Ru_3(CO)_<12>の共触媒系を用いることにより,低圧での基質1の異性化を実質的に抑制しながら,ジアステレオ選択性2:3に影響を与えない条件を見出して解決することを得た.
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