研究概要 |
柔らかい生体適合性の良いメモリーの開発がこの研究の終局の目的である。その目的のために,高分子強誘電体を使った有機薄膜メモリー形成の基礎研究を行った。 1.強誘電性高分子VDF/TrFE共重合体の薄膜の作成を,集積回路内で使用可能な5〜10ボルト程度の電圧でコントロールできるサブミクロンの膜厚を目指して,スピンコート法により試みた。ミクロンの壁を破るため溶媒,溶液濃度,スピンコーターの回転速度の調整をした結果,220ナノメータの強誘電性薄膜を得ることに成功した。この薄膜は約10ボルトの電圧で分極の反転を起こすことができる。従って集積回路中でのメモリーとして使用可能である。しかし実用に供するには,現在の薄膜では結晶の完全性が不足しており,分極の2値性がミクロン以上の厚さの膜に比べてもう一つはっきりせず,より高品質の薄膜を必要とする。 2.メモリー動作の3要素(書き込み,読み取り,初期化)のひとつである読み取り動作に関して,光回路に直接応用できるよう光透過率の違いを使えないか検討した。結局P(VDF/TrFE)フィルム単体ではその実現は難しく,VDF/TrFE共重合体をマトリックスとし,ネマチック液晶5CBを混合した高分子分散型液晶PDLCフィルムメモリーを作成し,その動作を検討した。PDLCをポーリングすることで,PDLCの高分子部分を配向分極させることが出来た。その分極の内部電場が5CBの配向に影響し,PDLCの光透過率を変化させた。これはこのPDLCが,ポーリングによる分極変化を書き込みと初期化に,光透過率変化を読み取りに使うメモリーとして使えることを示している。 以上、この研究の所期の目的の強誘電性を利用したやわらかい薄膜メモリーが実現可能であることが結論できる。
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