研究概要 |
本研究では,D体分率の異なる複数のポリ乳酸(PLA)を用い,複合高速紡糸において,成分間相互作用を利用して新規な高次構造の制御法を試みるというミクロな視点と,各成分の繊維断面内配置を制御するというマクロな視点を組み合わせることを通じ,生分解により繊維が使用できなくなるまでの時間や,それに至るまでの物性変化の挙動を高度に制御した生分解性複合繊維を作製することを目的とした.研究成果を以下に示す. 1.D体分率の異なる3種類のポリ乳酸(PLA)の高速溶融紡糸: 最高巻取速度が10km/minまで到達したことから,PLAは非常に可紡性がよいことが分かった.複屈折,WAXDおよびDSC測定の結果より,低分率D体PLAは高速域5km/minで配向結晶化が起こり,D体分率の増加に伴い結晶化度は低下することが明らかになった.繊維の初期弾性率および強度は,巻取速度10km/minの低分率D体PLAで,それぞれ5.93GPaおよび569MPaと最高値を示した. 2.高速溶融紡糸によってD体分率の異なるPLA極細繊維の作製: 極細繊維の最小直径は3.47μmとなり,通常の繊維直径の約1/7を有する極細繊維が得られた.複屈折,DSC測定および力学特性の結果より,極細化すなわち吐出量の低下に伴い,繊維構造形成は促進されるのに対して,最高巻取速度は低下することが明らかになった. 3.高結晶性である低D体分率ポリ乳酸(PLA)を芯成分,非晶性である高D体分率PLAを鞘成分とする芯鞘型複合繊維の作製: 複合繊維中の低D体分率PLA成分・低D体分率PLA単成分繊維ともに配向結晶化が巻取速度5km/min以上で起こることが明らかになった.力学試験の結果,複合繊維のヤング率・破断強度は,7km/min以上でそれぞれ5GPaおよび400MPa程度であり,最大収縮率は15%以下であった. 4.高速紡糸PLA繊維の熱挙動: 温度変調DSC(TMDSC)により詳細な検討を試みた結果,不可逆成分の吸熱挙動は主に高速紡糸線上あるいは延伸・熱処理過程で形成された完全性の高い結晶の融解に対応することが明らかになった.
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