研究概要 |
遮光や剪葉などsource/sink比が低い条件下では,イネの穂の下部に着生する弱勢な穎果の初期生長が遅延し易いこと,そしてこの遅延は穎果の胚乳細胞数や最終粒重の低下を伴うことが知られている.本研究ではイネの弱勢な穎果の登熟における植物ホルモンと炭水化物の役割を明らかにしようとした. 1.穎果の初期生長および乾物蓄積における光の役割 出穂後の遮光は弱勢な穎果の初期生長を減少させた.出穂期の茎・葉鞘の貯蔵炭水化物含量を減少させる出穂前の遮光や光合成を増大させる出穂後の二酸化炭素増加は初期生長には影響しなかったが,乾物重増加速度を高めた.したがって,穎果の初期生長(細胞分裂・伸長)はホルモーナルな要因により,一方穎果におけるデンプン蓄積は炭水化物栄養により制御を受けていることが示唆された. 2.穎果の初期生長の日変化における植物ホルモンと炭水化物の役割 光に対する最も基本的な反応である穎果の初期生長の日変化を調べた.穎果の伸長と母性組織(果皮,珠心表皮)の分裂は,主に日中に行われていた.穎果におけるアブシジン酸は日中明らかに高レベルとなること,サイトカイニンは反対に夜間に高レベルになること,また遊離糖は明確な日変化を示さないことが示された.したがって,光はアブシジン酸を通じて穎果の初期生長を制御していること,アブシジン酸は穎果の生長促進要因として働いていると考えられた. 3.穎果の初期生長,胚乳細胞数および登熟特性の品種間差 十数の品種を用い,source/sink比が低い条件下での弱勢な穎果の初期生長の遅延程度の違いや,それらと登熟特性の関係を調べた.その結果,穎果の初期生長の遅延程度には品種間差があること,遅延しにくい品種ほど胚乳細胞数が減少しにくく,最終粒重,そして一穂収量も減少しにくいことが明らかとなったが,このような品種間差を生理的に明らかにするまでには至らなかった.
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