研究概要 |
"Culture Pack"(CP)はフッ素樹脂PFAフィルム(PFA)を素材とした培養容器であるが,PFAは高価格であり,CPの実用化にあたっては,より安価なフィルム素材の適用が望まれている.本研究では,まず,PFAに比べ非常に低価格で,ガス透過性,耐熱性に優れた多層構造フィルム(PTP)とPFAを用いて,両フィルムで作製したCPでの小植物体の生育,容器内のガス環境,小植物体の光合成能の測定を行い,フイルム素材としてのOTPの有効性を検討した.次に,OTPフィルムを用いた実用性と高機能を備えたクローン苗生産用ディスポーザプル新培養容器を試作した.まず,OTPおよびPFAで作製したCP・ロックウールシステムに,シンビジウム3品種のin vitroで増殖した苗条を植付け,3000ppm CO_2施用条件下で培養した.その結果,3品種いずれにおいても,OTPを素材とするCPで生育した小植物体は,従来法(三角フラスコ・寒天培地)のものに比べ,生育は促進され,PFAを素材とするCPで生育したものとほぼ同等の生育を示すことが明らかになった.次に,各容器内のCO_2濃度の日変化を測定した結果,OTPおよびPFAを素材としたCP内の明期中のCO_2濃度は,従来法に比べ,比較的高い濃度で推移した.さらに,各培養システムで生育した小植物体の葉の光合成速度を測定したところ,OTPおよびPFAを素材としたCPで生育した小植物体の葉の光合成速度は,従来法で生育したものに比べ,高い値を示した.以上の結果,小植物体の生育,培養容器内のガス環境,小植物体の光合成能の面から評価すると,フィルム培養システムのフィルム素材として,OTPはPFAとほぼ同等の性能を有していると判断された.次に,OTPフィルムを素材として試作した新培養容器「Vitron」は,(1)容器本体,(2)トップシールフィルム(TSF)および(3)保護フタの3パーツから成る.TSFはアクリル系粘着剤により容器本体を密閉し,保護フタはTSFを保護し,スタック性を付与する.このVitronと"Miracle Pack"(MP)を用いて,種々の外植体を,さまざまな培養形態で培養した.その結果,サツマイモでは,Vitronで得られた小植物体は,両フィルム製MPのものに比べ大きかった.イチゴでは,培養システム間で小植物体の生育に差は認められなかった.また,シンビジウムでは,いずれの培養システムでも大きなPLB集塊が得られ,PLB数も大差はなかった.一方,各培養システムで得られたユーカリ小植物体を順化した結果,Vitron由来の小植物体は,他の培養システムのものに比べ,地上部生体重が有意に増大した.本研究の結果,今回試作した新培養容器Vitronは,さまざまな培養形態に対応が可能なクローン苗生産用培養システムとして優れた実用性を有することが明らかとなり,マイクロプロパゲーションでの実用化が期待できる.
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