研究概要 |
棚田は独特の景観を呈しているが,栽培農家の高齢化や栽培が非効率的であるなどの理由で多くが放棄され,そこを生活の場とする植物が絶滅の危機にさらされている。本研究では,棚田に生育する植物の保全を目的とし,その種多様性及び遺伝的多様性の特徴を平野部の水田と比較することによって明らかにした。 まず,二年間にわたり京都府北部丹後半島の棚田畦畔に生育する植物の種多様性を平野部の水田畦畔と比較した。棚田畦畔には75種が,平野部の水田畦畔には71種が出現した。種多様度は棚田畦畔で高かったが,帰化植物の占める割合はわずか9%で平野部の水田畦畔より低かった。調査対象の棚田畦畔では草刈りが定期的に行われ,多くの種が季節変化をともなって生育することが可能で,その結果,種多様度が高く維持されていると考えられた。一方,平野部の水田畦畔は,基盤整備によって破壊的な撹乱を受けた結果,在来植生も破壊され,帰化植物が侵入し,種多様度が低下したと考えられた。次に,丹後半島の棚田に残存するトチカガミ科の水田雑草の分布を調査した。その結果,絶滅危惧II類のスブタは2ヶ所で,ヤナギスブタは7ヶ所で,ミズオオバコは7ヶ所で生育を確認した。スブタは生育数が極端に少なかったので遺伝的解析を行わなかった。ヤナギスブタはRAPD分析の結果,明らかに地域集団に分化していた。ミズオオバコは,ヤナギスブタと比較して遺伝的多様性が高かった。ある地域では,上流にあるハス田から種子が供給されていることが遺伝的解析の結果から推定され,生物多様性を保全するために地域全体を保全する必要があることが示唆された。また,特定地域集団では,集団内の遺伝的多様性が全く認められなかった。これら3種は従来他殖であると報告されてきたが,閉花受粉を行っていることが明らかになった。
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