研究概要 |
リン酸欠乏状態の根の浸出物はアーバスキュラー菌根菌の菌糸成長を促進する。その促進機構は不明である。本研究では水耕培養によりリン欠乏のタマネギ根の浸出物を大量に回収し、各種クロマトグラフィーにより分離・精製した画分が菌糸成長に及ぼす影響について検討した。 〔方法〕タマネギ(Allium cepa L.品種 泉州中高黄)を3段階のリン濃度(0,0.1および8mgPL^<-1>,P0,P0.1P8)の培養液で水耕培養し、根の浸出物を回収した。浸出物をAmberliteXAD-4樹脂を用いて疎水性画分(P0E, P0.1E, P8E)と親水性画分に分けた。さらに疎水性画分をシリカゲルTLC(ヘキサン:酢酸エチル=8:1)、ODS TLC(90%メタノール)、SephadexLH-20カラムクロマトグラフィーで分離した。これらの画分および脱塩水(対照区)中でアーバスキュラー菌根菌Gigaspora margarita胞子を暗所27℃で10日間培養し、菌糸長および菌糸の分岐数を測定した。また、精製された画分について、各種機器分析を行った。 [結果]Gi. margaritaの菌糸長および菌糸の分岐数はP0EおよびP0.1E区で、対照区とP8E区より大きかった。P0EとP0.1Eから分取シリカゲルTLCにより画分Al(Rf値0.57)が得られた。画分A1中での菌糸長は対照区より長かった。画分A1から分取ODS TLCにより画分B1(0.21)が得られた。画分B1中での菌糸長は対照区より長かった。また、画分B1中での分枝数は対照区とP8区より多く、分枝の75%以上は2次以降の分枝であった。これらのことからリン欠乏のタマネギ根の浸出物には菌糸の伸張と分岐を促進する物質が含まれており、これにより菌と宿主植物が根圏土壌中で接触する確率が高められ、菌根形成が促進されていると考えられた。 また、精製されたB1画分からは,フタル酸ジ-iso-ノニルが単離・構造決定された。この化合物が菌糸伸張を促進することが示されたが、これは植物根由来ではないと思われる。
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