研究概要 |
我々のグループでは糸状菌Aspergillus nidulansより5種のキチン合成酵素遺伝子(chsA〜D、csmA)を単離し機能解析を行っているが、その過程でChsAとChsCは単独でその遺伝子を破壊しても野生株と表現型に変化がみられないのに対し,二重破壊株は様々な薬剤に対する生育感受性、分生子形成効率の低下,分生子形成器官の形態異常等を示すことを明らかにしていた。そこで本研究ではまずchA、chsCの二重変異株の表現型の変化のより詳細な解析を行った。まずこの二重破壊株の細胞壁のキチン含量を測定したところ固体培地においてはchsC単独破壊株のキチン含量が野生株と同様だったのに対し、chsA単独破壊のみでもキチン含量の増加が見られchsA、chsCの二重破壊株ではさらにキチン含量の上昇がみられた。一方、これらの株について透過型電子顕微鏡による細胞壁の観察を行ったところchsA、chsCそれぞれの単独破壊株の細胞壁は野生株と同様であったがchsA、chsC二重破壊株の細胞壁は野生株に比べて厚く、隔壁も厚かった。さらに隔壁の生じる間隔も野生株に比べて不均等で、隔壁中央に開いている穴の直径も野生株に比べて大きかった。これらのことからchsA、chsCの二重破壊により生じた細胞壁の損傷を修復するような機構が存在し、キチン含量の増加、細胞壁・隔壁の肥厚が生じたと考えられた。またchsBとchsA、chsC、chsDの機能の関連について検討するため,これらの二重変異株を作製しその性質を検討した。その結果chsDはchsBの発現がない場合、高浸透圧条件下において菌糸生長における役割の重要度が増すこと、chsA、chsCはともにchsBの発現のない状態で機能の重要度が増すが、菌糸生長において少なくとも一部異なる機能を持つことが示された。
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