研究概要 |
樹冠層の節足動物群集の質的・量的特性の把握と針葉樹人工林における環境収容力の評価を目的として,スギ,カラマツ人工林,および広葉樹林を対象として,おもにclipping(枝葉採集)法によって,節足動物の群集構成や個体数・現存量,および樹木の量的特性との関連性を明らかにした.とくに,単木ごとの直径-葉量間の相対成長関係をもとに,節足動物データと毎木調査から樹上節足動物群集の密度を推定する方法を開発した.単木あたりの密度推定では,スギに比べてカラマツの方が,個体数,現存量ともに豊富な節足動物群集を維持していた.森林の昆虫食性鳥類は,その繁殖において生息環境の餌条件の影響を強く受ける.そこで,シジュウカラ(Parus major),ヤマガラ(P.varius)の繁殖生態と餌資源利用様式を,餌資源の量的・質的特性との関連から評価した.カラ類の主要餌資源である,樹冠層の鱗翅目・膜翅目幼虫の現存量の指標として,カラ類の主要採餌場所であるスギ,カラマツ,落葉広葉樹区における落下虫糞量を調査した結果,幼虫の現存量はスギ区よりもカラマツ区,落葉広葉樹区で多いことが示唆された.これに先立ち,トラップ内における虫糞サンプルの残存率と降雨量の相関から,降雨に伴う虫糞の重量減少の補正方法を新たに開発した.カラ類の繁殖期における餌環境は,鱗翅目・膜翅目幼虫,およ桝也の潜在的餌資源の節足動物のいずれについても,スギ区とカラマツ区の間で大きく異なっていたが,繁殖成功度はいずれも,他の森林における水準に匹敵するものであった.本研究の結果より,様々な餌環境を持つ植生がモザイク状に存在する生息地をカラ類が適応的に利用する方法として,シジュウカラは異なる環境を利用できるような可塑性を獲得することにより,ヤマガラは特定の環境に特化して集中的に利用するような採餌生態を持つことにより,雛の餌要求を充足する量の餌を獲得した結果,調査区間で差が現れなかったものと推察された.
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